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東京高等裁判所 昭和49年(ネ)272号 判決 1976年5月17日

控訴人(附帯被控訴人) 石川島播磨重工業株式会社

右代表者代表取締役 眞藤恒

右訴訟代理人弁護士 松崎正躬

桑原収

被控訴人(附帯控訴人) 横井孝治

<ほか二名>

右三名訴訟代理人弁護士 真部勉

馬上融

松丸幸子

田山睦美

主文

原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。

被控訴人らの請求を棄却する。

本件附帯控訴を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

事実

控訴人代理人は「原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。被控訴人らの請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、附帯控訴につき附帯控訴棄却の判決を求めた。

被控訴人ら代理人は、控訴棄却の判決を求め、附帯控訴として「原判決中被控訴人ら敗訴部分を取り消す。控訴人が昭和四六年一一月八日被控訴人横井孝治、同林政美に対してした出勤停止一日の各懲戒処分及び同月一二日同石川盛矢に対してした減給半日の懲戒処分がいずれも無効であることを確認する。さらに控訴人は被控訴人らに対し各自八万円及びこれらに対する昭和四七年一月一三日から完済まで、年五分の金員を支払え。控訴人はこの判決が確定した後遅滞なく、原判決別紙(一)の告示を記載した書面を控訴会社豊洲総合事務所、東京第二工場及び新豊洲寮の各掲示板に、同別紙(二)の告示を記載した書面を同会社東京第三工場の掲示板に、それぞれ一〇日間にわたり掲示せよ。訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張及び証拠関係は、次のとおり付加する外は、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。(控訴人の主張)

一、被控訴人横井、同林について

(1)  使用寮の転換はもとより、特定の寮内における相当規模の部屋替えは、控訴人が会社全体の立場から計画立案する事項であるから、その計画立案は勿論、最終的な決定権は控訴人に留保されており、従来も計画立案の段階で自治会や寮生の意見や希望を聞いた事例もなく慣行もなかったから、本件の場合も立案に当って殊更事前に自治会や寮生の希望や意見を聞くことはなかった。

(2)  控訴人側が自治会への説明会の席上で「本日自治会に説明にきたのは、本計画について了承してもらうためにきたのであって、会社の方針に対して賛否を云々すべき筋合のものではない。」と発言したのは、当時自治会は控訴人が部屋替えを実施しなければならない必要性につき配慮することなく、唯反対を唱えるだけであったから、自治会に対し部屋替えを前提として、それに伴う問題点や部屋替えの基準等につき積極的に寮生の希望を集約し表明できるようその活動を促し、自治会の指摘する問題点に基づき更に話合を進め、また本件部屋替えは寮生の問題でもあるが、会社全体の寮運営にかかわる問題であるから、そのような立場で問題の処理を考慮するよう、控訴人側の考え方を卒直に述べたまでのことであって、決して控訴人側の強行的な態度を示すものではない。

(3)  控訴人が自治会の申出にかかる全全体説明会の開催を断った理由は、実際に部屋替えの対象となっている者は全寮生四八〇名中一五〇名であって、全体説明会ではともすれば多数の蔭にかくれて対象者の直接の声が聞けないおそれがあるので、直接の利害関係を持つ当の対象者から生の意見や希望を聞くためであり、その上でできる限り本人の希望に副う措置をとりたいと判断したからである。従って寮長が該当する寮生について、その意見や希望を聞いて廻ったことはあるが、個別に説得して廻った事実はない。

(4)  控訴人は従来自治会が行う文化体育活動に対し、その費用の一部として寮生一人につき半期ごとに二〇〇円の補助金を支給していたが、その支給に当っては、所定の申請用紙に必要事項を記載させ、更に参加人の名簿を添付して申請せしめ、右行事が補助金の対象として相当かどうかを判定して、支給の有無を決定していたのであり、昭和四五年四月になって初めて申請手続に変更を加え、行事の内容を検討して支給の可否を決定するという方針を採るにいたったものではない。従って山野井寮長が寮生の質問に対し行った説明は、控訴人は従来どおり自治会が行う文化体育活動に対してその費用の一部として補助金を支給することを明らかにするとともに、単なる飲み食いの会合には今後とも補助金の支給をしないから、その点を配慮して申請手続をするようにと述べたに過ぎず、今後遊びを目的とする行事には補助金を支給しない方針にする旨述べた事実はない。

(5)  本件ビラ中寮母に関する記載は、控訴人に対する要望事項として記載されたものではあるが、その文言は「寮母の待遇が劣悪で人も少ないため、病気のときやつくろい物など家庭的なサービスを受けていないので、寮母の待遇を改善し、人も増やし病気のときやつくろい物など家庭的なサービスを受けられるようにしよう」と読むのが一般的であって、その要求の実現により、寮母の家庭的なサービスを今よりももっと受けたい旨を表現したものとは読み難く、従って右文言は寮母のサービスが現在極めて不満足の状態にあり、劣悪であるとして、訴えたものと受取るのが極めて素直な解釈である。

二、被控訴人石川について

(1)  本件ビラ中「鋳鋼工場課が石川島の中でも最も悪い環境だといわれている職場」である旨の記載は、事実を歪曲するか誇大に過ぎるものである。被控訴人石川が竹部辰夫の退職のことについて「やめて行った」という通常の表現を使用しないで、敢えて「逃げ出していった」という文言を使用したのは、鋳鋼工場課が「最も悪い環境」であることを強調し、印象づけようとするところにその目的があるのであるが、竹部辰夫の退職は専ら同人の家庭事情によるものであるから、右文言は真実に反し虚偽の記載である。

(2)  ビラの内容が従業員の安全に直結する事項に関するものである場合は、その影響力が甚大であることを考え、単なる風聞や臆測にたよることなく、自ら事実を調査し正確を期し、いやしくも従業員に不安を醸成することのないよう細心の注意を払う必要があるにかかわらず、被控訴人石川は単なる風説に基づき、これを誇張しあたかも真実であるかのごとく表現しているのである。

三、被控訴人主張の後記三の中、懲戒処分の有無が従業員の成績査定に加味される事実は否認し、確認の利益の存在は争う。

(被控訴人らの主張)

一、(1) 控訴人主張の一、(1)の事実は否認する。仮に部屋替えについての決定権が控訴人にあるとしても、寮生活は従業員の生活に関するものであり、部屋替えは寮生にとって重大な関心事であるから、自治会や寮生の意見を聞く必要がある。また本件のような大規模な部屋替えは初めてであるから前例はないが、部屋替えについては従来寮生との話合により行われる慣行がある。

(2) 右一、(2)の事実中、控訴人側が自治会に対し行った説明の内容がその主張のとおりであることは認めるが、その趣旨が控訴人主張のとおりであることは否認する。

(3) 右一、(3)の事実中、控訴人が自治会の申出にかかる全体説明会の開催を断ったことは認めるが、その断った理由は争う。寮長は寮生の意見や希望を聞いて廻ったのではなく、説得して廻ったものである。

(4) 右一、(4)の事実中、従来所定の申請用紙があって、それに必要事項を記入し、参加人名簿を添付し申請していたこと及び山野井寮長の説明の内容が控訴人主張どおりであることは否認する。従来は白紙に記載して提出していた。

(5) 右、(5)は争う。

二、(1) 右二、(1)の事実は否認する。「逃げていった」という表現は「辛抱しきれなくてやめていった」ということを端的に表現する労働者の用語であって、竹部のようなやめ方は、正しく「逃げていった」という表現にあてはまり、右表現は非難するに当らない。

(2) 右二、(2)の事実は否認する。労働者の配布するビラは、仲間や第三者の情感に訴え、その共感を得るためのものであるから、その文言が若干誇張に及ぶことがあっても、右のごときビラの性格からいって、当然の要請である。

三、従業員の成績査定が賃金や賞与の額の決定に影響することは常識であり、また懲戒処分が成績査定に加味されることも当然であるから、被控訴人らが懲戒処分を受けたことは、反証のない限り、その賃金や賞与の額の決定に考慮されるものと推定すべきである。従って控訴人において反証を尽さない以上、右懲戒処分は被控訴人らの賃金や賞与の額の決定に影響を及ぼしたものとして、確認の利益を認めるべきである。

(証拠関係)≪省略≫

理由

一  控訴人が、東京都千代田区大手町二丁目二番一号に本店を置き、東京・横浜・名古屋・相生・呉の各地区に計一四の工場を有し、各種船舶・艦艇、舶用機関・陸上機関・原子力機器、航空機用原動機舶用汽罐をはじめとして一般産業用機械および鉄骨構造物等の各種重機械の製作・修理を主たる業とする株式会社であること、その資本金は約三八八億円であり、従業員総数約三八、〇〇〇名を有していること、被控訴人横井は、昭和四一年三月、広島電機高等学校機械科を卒業し、同月一六日、控訴会社に入社し、現在、控訴会社東京第二工場(以下「東二工場」という。)船殻工作部溶接工場課に所属し、船台の船体ブロロック溶接作業を担当していること、被控訴人林は、昭和三八年三月、千葉工業高等学校機械科を卒業し、同月二二日、控訴会社に入社し、現在、控訴会社豊洲総合事務所内にある化工機事業部第五化学プラント設計部プラント設計二課に所属し、主としてタンク類・配管関係の電算化のためのプログラマーの仕事に従事していること、被控訴人石川は、昭和四四年三月、釧路工業高等学校定時制機械科を卒業し、同月二四日、控訴会社に入社し、現在、控訴会社鋳鍛本部東京鋳鍛部鋳鋼工場課に所属し、造型工として仕事に従事していること、被控訴人らは、いずれも控訴会社の従業員をもって組織される石川島播磨重工労働組合東京支部の組合員であること、及び被控訴人横井、同林が昭和四六年九月二二日、控訴会社の従業員に対し原判決別紙(三)のビラ数百枚を配布したこと、控訴人は右両名に就業規則第七七条第一五号に該当する行為があったとして、同年一一月八日右両名を出勤停止一日の懲戒処分に付し、翌九日の就労を拒否し、同月二五日に支払われる賃金から平均賃金の一日分に当る被控訴人横井につき二一九一円、同林につき二四五六円を差し引いたこと、控訴人は同月八日付懲戒発令の件と題する書面を控訴会社豊洲総合事務所及び東二工場の掲示板に掲示するなどして、右被控訴人両名が懲戒処分を受けたことを控訴会社の従業員に周知させたこと、被控訴人石川が昭和四六年九月九日控訴会社の従業員に対し同別紙(四)のビラ数百枚を配布したこと、控訴人は右被控訴人に就業規則第七七条第一五号・第七二条第四項に該当する行為があったとして、同年一一月一二日右被控訴人を減給半日の懲戒処分に付し、同月二五日に支払われる賃金から平均賃金の半日分に当たる八〇一円を差し引いたこと、控訴人は同月一二日付懲戒発令の件と題する書面を控訴会社東三工場の掲示板に掲示し、右被控訴人が懲戒処分を受けたことを控訴会社の従業員に周知させたこと、就業規則第七七条が「従業員が次の各号の一に該当するときは、懲戒解雇に処する。ただし情状により出勤停止または減給にとどめることがある。(15)会社に不利益となる浮説を宣伝流布したとき、または会社に対して非協力的言動画策をして業務の正常な運営を妨害し、または妨害しようとしとき。」と規定し、また同第七二条第四項が「懲戒にあたり、始末書の提出を拒んだときは処分を加重する。」と規定していることは、当事者間に争いがない。

二  そこで本件懲戒処分の適否について、被控訴人ごとに以下検討する。

(1)  被控訴人横井、同林について

(一)  「今年の春には、教育寮と成人寮に区分するのだといって新豊洲寮の部屋替えを、寮生と自治会が充分納得しないままに強行しました。」という点について

これが昭和四六年二月に行われた東京都江東区豊洲三丁目三番二三号所在の新豊洲寮の部屋替えのことを指したものであることは、当事者間に争いがない。

≪証拠省略≫をあわせると、控訴人は従業員の教育計画及び独身寮利用希望者の地域的配分等を配慮し、従来主として東二工場の新規高校卒従業員の教育に充てていた横浜市磯子区にある拓海寮を横浜地区工場の従業員専用に振り替え、前者のために東京都江東区豊洲一丁目所在の若潮寮を充てることを計画し、これに伴い、関係寮間の転寮及び同一寮内における寮生の部屋替えを必要とする事情が生じたこと、このうち新豊洲寮は、東京地区における収容人員の最も大きい寮であったから、控訴人はこの際、同寮を東二工場の従業員の寮として専用する方針を決定し、取りあえず昭和四六年度は、同寮のA棟全部及びB棟の一、二階に東二工場の従業員を移動させることとしたこと、そこでA棟に居住する東二工場以外の事業場に所属する寮生をB棟の三階以上か、または他の寮へ転寮させることが必要となるが、新豊洲寮では、職場の異なる寮生が混在していたため、出勤時間の相違があって適当でない面もあったから、この際同寮の部屋替えも行い、職場ごとに寮生を集めることとし、一応A棟全部及びB棟の一、二階に工場勤務の寮生を、そしてB棟の三ないし五階に事務系の寮生を収容することになり、結局新豊洲寮から、在寮生四八〇名中五〇名が転寮し、一五〇名が部屋替えを実施することになったこと、寮規程には「寮生が入居すべき寮は福祉担当課長、居室の割当については寮長が決定する。」と定めていること、右寮生の転寮及び部屋替えは、新入社員の受入や在寮生の便宜等を考え、会社全体の立場から控訴人の責任において、これを立案計画すべきことであったが、控訴人は右計画を円滑に実施するために自治会や寮生の理解と協力を得る方針をとったこと、昭和四五年一二月二四日転寮の対象者に対し、新入社員の入寮状況、転寮の趣旨及びその計画の概要、転寮の時期を説明したこと、自治会役員に対して、同月二八日右転寮計画の外、この際転寮と同時に新豊洲寮の部屋替えを実施したい、その理由は寮生を職場ごとに集めた方が出勤時間の関係でも都合がよく、話題も合い、リクリエーションも活発になり自治会も円滑に運営され、そのことがひいては職場に定着する率もよくなるからである旨の説明を行い、自治会の協力を求めたこと、自治会役員は初めて聞く話なので確定的なことは言えないが、寮生を職場ごとに集めるよりも、職場を異にする者の混在する現状の方が、話題も豊富であり、寮生の人間形成にプラスになりはしないかとの意見が出たこと、控訴人側は本日自治会に説明に来たのは、この計画につき自治会に了解してもらうためであって、会社の方針に対し賛否を云々すべき筋合ではなく、部屋の移動に関してより有効な手段があれば自治会の意見を聞きたい旨強調したこと、自治会としては新豊洲寮からの転寮の点は問題はないが、部屋替えは問題であるとし、昭和四六年一月八日中央委員会を開いて、新豊洲寮の部屋替えにつき全寮生に対する説明会を開くよう控訴人に申入れることを決議し、翌九日寮内の黒板にその旨の掲示を行ったこと、控訴人は部屋替えするのは在寮生四八〇名中一五〇名に過ぎず、全寮生に対する説明会を開いても、部屋替えにつき間接的な利害関係を有するに過ぎない多数の寮生の蔭にかくれ、直接の利害関係のある対象者の意見が聞けないおそれがあるから、部屋替えの対象となっている寮生から直接その意見や希望を聞く方がより現実的であるとし、寮生全体に対する説明会を開かない旨答え、自治会の申入を断ったこと、寮長小野正俊は同日右黒板の掲示は、事前に寮長の許可を得ておらず、しかもその内容が事実に反するとして右黒板の掲示を消したこと、同月一一日自治会はこれに対し抗議の申入をしたこと、控訴人はそのころ部屋替えについての控訴人の方針及び具体的計画を寮内に掲示して、寮生のこれに対する理解と協力を求め、また同月二三日自治会中央委員と面接して右計画の詳細を説明し、改めて寮生を職場ごとに集めることの必要性と全体説明会を開く意向のないことを話したが、自治会の了承を得るまでにいたらなかったこと、控訴人はその後も自治会との折衝を重ねる一方、部屋替えの対象となっている寮生に、寮長が個別に会い同旨の説明をすると同時に、寮生の意見や希望を聞き、これを部屋替えの計画に取り入れ、部屋の配置計画を調整したこと、自治会は一月二九日その総会を開いて、寮生を職場ごとに集めることには反対であること、寮長の個別説明をやめるよう申入れることを含む四項目を決議したが、その際寮生の中から、寮長から部屋替えに反対するなら寮を出るようにいわれた旨の発言があったこと、同日自治会が総会の右決議を黒板に掲示したところ、翌三〇日寮長はこれを消すとともに、自治会役員に対して部屋替えに関する自治会の活動を禁止する旨の申入をしたこと、二月六日から同月八日までの間、自治会は右総会の決議事項につき一般投票を行った結果、有効投票二八六票のうち、承認二三七票、不承認三九票、白紙一〇票で、総会の決議事項が承認されたこと、同月六日自治会役員は組合に対し本件につき協力を要請したところ、組合は控訴人側と折衝した挙句、組合としては控訴人の方針をやむを得ないとする意見であったこと、その結果自治会から控訴人に対して八項目の要望事項の申入があったが、控訴人は同月一七日自治会に対し、その申入にかかる要望事項八項目中、部屋替えをする寮生に対しては、所定の棟内で本人の希望するフロアー及び部屋を選ばせること、移動する日時については、本人の希望ををできる限り取り入れる、部屋替えを機会に転寮を希望する寮生に対しては、それを認める等を含む六項目を受け入れる旨回答し、自治会も部屋替えを基本的に了承するにいたったこと、そして控訴人側及び自治会役員らは、三月三一日一堂に会し、いわゆる手打ち式を行ったことが認められ(る。)≪証拠判断省略≫前記経緯によれば、控訴人は本件部屋替えの必要性を全寮生に周知させ、部屋替えの対象となった寮生については個々に説明するとともに意見や希望を徴し、部屋替えに関する自治会の要望の大部分を受け入れ、自治会役員も部屋替えを了承するに至ったのであるから控訴人は寮生や自治会の充分の納得がないまま本件部屋替えを強行したものということはできない。そうすると、この点に関する本件ビラの記載内容は、事実と相違するものというべきである。

(二)  「昨年まで支給されていた自治会行事への援助金(半年で一人当り二〇〇円)すら無くしてしまいました。」という部分について

控訴人が昭和三六年から納涼盆踊り大会、ダンスパーティ、スケート、ボーリング、ぶどう狩り、海水浴など自治会の計画した行事及び寮対抗の競技会など控訴人の計画した行事に対し、半期に一人当り二〇〇円の割合で補助金を支給して来たこと、被控訴人横井、同林の居住する新豊洲寮三階B棟自治会が計画した昭和四六年七月三日のボーリング大会に二〇〇〇円の補助金を支給したが、昭和四六年三月のボーリング大会及び同年九月の月見について、控訴人が補助金を支給しなかったことは、当事者間に争いがない。

≪証拠省略≫をあわせると、従来控訴人は自治会の行事に補助金を支給する場合、予め所定の行事補助申請書に行事の名称、日時、場所、参加人員、行事内容等を記入し、参加人の名簿を添付して申請させていたが、それは実際に申請どおりの人員が参加しているかどうかを確認し、万一行事中に事故が発生した場合に備え参加人の氏名を把握しておく必要があったからであること、控訴人は申請があれば無条件に補助金を支給するわけではなく、自治会からの申請に基づき、行事の内容が補助の対象として相当かどうかを判定して支給の有無を決定していたこと、寮祭としての催しの場合は別として、従来も単なる飲み食いは、自治会の文化体育活動とは認められないとして補助の対象としなかったこと、従って昭和四五年になって申請手続に変更があり、行事の内容を検討し補助金支給の有無を決定する方針に変ったわけではないこと、被控訴人横井、同林が居住する新豊洲寮三階B棟自治会が昭和四六年三月に計画したボーリング大会に補助金を支給しなかったのは、補助金の申請に当り行事の計画、参加人員等その具体的内容を明確にする申請書及び参加人名簿が提出されなかったからであること、また、同年九月同自治会が計画した月見につき補助金を支給しなかったのは、右自治会役員大久保豊久から同月初め口頭で月見を行うから補助金として五〇〇〇円出して欲しい旨の申入があったので、山野井寮長は申請用紙に記入して申請書を出すよう伝えたところ、同月一〇日付で申請書が提出されたが、右申請書には補助金額を六〇〇〇円と記載してあり、また参加人名簿が添付していなかったので、右寮長が金額が増加した理由と、月見の内容をただし、あわせて速かに参加人名簿を提出するよう催促したのに対し、右大久保からその後何の音沙汰もなく、従って補助金も支給されないままで終ったものであること、山野井寮長が昭和四六年三月寮生の質問に対してした説明の趣旨は、控訴人は従来どおり自治会の行う行事に対しその費用の一部を補助するが、単なる飲み食いの会合には今後とも補助金を支給しないので、この点を考慮し申請手続をするように述べたものであって、今後は遊びを目的とする行事には補助金を支給しない方針にする旨述べたものではないこと、昭和四六年七月三日B棟三階の自治会が行ったボーリング大会に補助した二〇〇〇円は、従来控訴人が自治会に対し行って来たものと全く同一の性質を有するものであることが認められ、≪証拠省略≫中、控訴人は昭和四五年四月三階B棟自治会の計画したサイクリング及び同月三階A棟自治会が計画した花見(この花見に対しては補助金が支給されなかったが、それは参加人の名簿が添付されなかったためなのか、参加人員が少かったためなのか、その理由は不明である)に対し、従来と異なり行事の内容、日時、場所等を記入した申請書の外、参加人の名簿を提出しなければ補助金を支給しない旨表明し、また昭和四四年までは行事の目的を区別することなく補助金が支給され、従って寮生の飲み食いについても何ら変らなかったという部分は、前掲証拠と対比し措信できず、その他にも右認定を左右する証拠はない。

右認定事実によると、控訴人は昭和三六年から自治会の計画した文化体育活動に対しては、半期に一人当り二〇〇円の割合で補助金を支給しており、昭和四五年になって補助金申請手続に変更を加え、また同四六年になってこれを打ち切った事実はないことが認められる。もっとも≪証拠省略≫によれば、昭和四五年における各階別の補助金額に多少の差がみられること、また寮生の間に、補助金の支給が制限され始めたとか、補助金が支給されなかったという不満の声が見られ、さらに同四六年三月計画された三階B棟自治会のボーリング大会に対し補助金が支給されなかったこと(その理由は前述のとおり)から同自治会の会計は赤字でスタートせざるをえなかったことが認められるが、各階の補助金額に差が生じたとしても、それは各階の行事の内容や参加人員の数にもよることであろうし、補助金を受ける側の寮生の間において、前述三回の補助金の不支給をそのように評価し受けとめたからといって、控訴人の自治会に対する従前の補助金の支給に変更があったことの的確な証左とはならない。そうするとこの点に関する本件ビラの記載内容は事実と相違するものである。

(三)  「寮母さんの待遇を改善し、人も増やし、病気の時やつくろい物など、家庭的なサービスを受けられるようにしよう。」という部分について

寮母が衣類等のつくろい物の外、寮生が病気になったとき食事のサービス、看病等をしていること、及び昭和四六年七月ころ被控訴人横井も寮母から作業用ズボンのつくろいを受けたことは、当事者間に争いがない。被控訴人横井、同林本人は原審において、寮母は日ごろ寮生の面倒をよくみてくれるので、被控訴人らも心から感謝し、従って本件ビラの右記載は、寮母の数は寮生の数と対比し少なく、極めて多忙であって、寮生が頼みごとをしようにも、遠慮したい気持になって気軽に頼めないのが現状だから、寮母の数を増やし、待遇を改善して、寮生が今よりも寮母のサービスを受けやすいようにして欲しい趣旨を表現したものであって、寮母のサービスが劣悪であるといっているものではない旨供述する。なるほど本件ビラの前後の文章を読むと、右の部分は控訴人に対する要望事項の一つとして、寮母の待遇の改善及びその増員の要求を掲げたものであることが認められるが、しかしそうかといって、右記載を被控訴人らの右供述どおりに理解することは到底困難である。むしろ右記載は「寮母さんの待遇が悪く人も少なく、そのため病気のときやつくろい物など家庭的なサービスを受けていない。」ことを前提として、寮母の待遇の改善及び増員の要求を掲げているものと理解するのが自然である。≪証拠省略≫によると、寮母らは山野井寮長に向い、自分達が家庭的なサービスをしてないようにビラに書かれていることは心外である旨話したことが認められるところ、このことは右に述べたことを如実に物語るものである。そうすると、本件ビラの右記載部分は、被控訴人らの真意が何であれ、これを客観的にみる限り、事実を歪曲するものというべきである。

(四)  ≪証拠省略≫によると、本件ビラが配布された日の翌日、新豊洲寮の寮生約七名が約三〇分間にわたり、控訴会社の豊洲総合事務所前の公道で、控訴人従業員に対し、ビラの記載内容が虚構であるとして被控訴人両名を糾弾する趣旨を書いたプラカードを掲げて訴えたり、同日の昼ごろ控訴会社労務担当者に対し、新豊洲寮の寮生二名がビラの内容は虚偽である旨を申入れ、また他の従業員から、ビラの内容の真偽について問い合わせがあるなどの反響があったことが認められ、右と異なる証拠は措信しない。

(五)  以上のとおり、本件ビラの記載内容は事実を歪曲し、控訴人の寮運営及び労務対策を中傷誹謗する記載である。≪証拠省略≫によれば、被控訴人両名のビラの作成及び配布は、控訴人に対する寮の待遇及び設備の改善の要求を実現するために、近く行われる組合役員の選挙に、右の点につき理解を有する者を推せんする目的をもってなされたものであることが認められるが、かりに動機や事情が右のとおりであったとしても、本件ビラの記載内容が事実を歪曲し、控訴人の寮の運営及び労務対策を中傷誹謗するものであることに変りはない。従って控訴人の従業員である被控訴人両名がした本件ビラの作成及び配布は、就業規則第七七条第一五号にいう控訴人に不利益となる浮説を宣伝流布した行為に該当する。

そして、前記のとおり控訴会社の内部に種々の反響をひき起しているのであるから、控訴人が懲戒処分したからといって不当なことではない。

そして、懲戒処分中出勤停止処分を選択し、被控訴人両名を一日の出勤停止処分に付したのは、相当であるということができる。

(2)  被控訴人石川について

(一)  「石川島の中でも最も悪い環境だといわれている俺達の職場、つい最近も新入社員が逃げ出していった様な職場です……」という部分について

≪証拠省略≫をあわせると、鋳鋼工場課ははがねの鋳物を作る職場であるが、控訴会社の中でも砂ぼこりや粉じん、媒煙が多く、昭和四六年中には従業員が就業中怪我をして入院するという事故もあって、組合としても、鋳鋼工場課の環境改善を重点的に取り上げていたことが認められ、右認定を左右する証拠はない。そうすると、本件ビラ中「石川島の中でも最も悪い環境だといわれている俺達の職場」という表現は、事実を歪曲するものとはいえないから、この部分に限れば、本件ビラの記載は虚偽ではないことになろう。ところが≪証拠省略≫によると、竹部辰夫(本件ビラにいう「新入社員」が竹部辰夫を指すことは、当事者間に争いがない)は、昭和四六年六月一日控訴会社に入社し、同年七月二七日付で退職したが、その退職の事情は専ら家庭の事情によるものであって、控訴会社の職場環境とは関係のないこと、すなわち竹部の養家は岩手県にあるところ、養父が船乗りで不在がちであるため、竹部が上京した後は養母一人でいることになるので、養父母はかねてより竹部の上京を喜んでいなかったこと、そこで養父母は竹部が昭和四六年七月二七日に会社の夏季連休を利用し帰省した機会にそのまま竹部を上京させず、同年八月四日養母一人が上京して、控訴人の関係者に右事情を訴え、竹部の退職を懇願したこと、控訴人はやむをえず竹部の退職を了承したが、竹部自身家庭の事情により退職せざるをえないことをむしろ残念であるとしていたことが認められ、右認定を左右する証拠はない。そうすると本件ビラの後段部分は竹部が家庭の事情により退職した事実を歪曲していることになる。

本件ビラの前段部分が必ずしも事実と相違するものでないことは、前述のとおりであるが、しかしこれに続く後段部分が事実を歪曲するものである以上、これを続けて読んだ場合それは不可分一体のものとして理解され、いかにも控訴会社の鋳鋼工場課の環境が劣悪なため、最近も新入社員が逃げ出していったかのごとき印象を与えることは否定できない。そうすると本件ビラはこれを一体としてみる限り、事実を誇張するものというべきである。

もっとも≪証拠省略≫によると、被控訴人石川の所属する職場には同人と同じ年ごろの若者が十数名しかいないところ、若い新入社員が入社して来たときには、歓迎会を開き、また仲間が退職する場合には送別会を開いてこれを送るなどして、お互いに友好を深めるのが普通であったこと、ところが竹部は入社して僅か二ヶ月位しかたたない中に、しかも夏季連休に帰省したまま職場に戻らず、職場の仲間たちに何の連絡もなく、従って仲間から送別してもらうこともなかったことなど、普通のやめ方と違っていたこと、そのため仲間うちで、竹部のことを「逃げたんだな」、「やめたんだな」などうわさしたこと、被控訴人石川はかねて、竹部は若い仲間と一緒に遊ぶこともなく、職場に不満を抱いていたものと理解していたことが認められるから、以上の点を考え合わせると、被控訴人石川は竹部の退職を職場の環境によるものと認識し、これを表すために「逃げ出していった」と表現したものと思われる。しかしそうであったにしても、右部分がその前段部分と一体として読まれる場合、事実を誇張することに変わりはない。

(二)  「実際にアッシュランドを使い出してみると、アッシュランドを直接使って作業をしている人の大多数が腕や手に発疹症状が現われて職場では、不安が高まっています。」という部分について

≪証拠省略≫をあわせると、鋳鋼工場での造型作業は、木型に鋳物砂をこめ、所定の鋳型を作るものであるが、従来の作業方法は、水分を使用するため鋳物をかわかす作業を必要とし、品質上も難点があったこと、ところがその後アメリカで、水分を使用せず作業も容易となるアッシュランド法が開発されたので、控訴人は昭和四五年四月担当者を渡米させ、また技術研究所において研究を行ない、同年一二月には鋳鋼工場課で、同四六年一月には鋳鋼工場課で、それぞれ実用テストを開始したこと、造型作業では従来粘土以外の粘結剤を使用する場合、一般にゴム手袋を着用させていたが、殊にアッシュランド法は、粘結剤としてアルキッド樹脂等を石油系溶剤に溶かした水あめ状の液を扱うため、控訴人はアッシュランド法を採用するにあたり、職場の班長をして、その操作にあたる作業員に対し、週三回行われる安全教育の場で、必ずゴム手袋を着用し、粘結剤に皮膚が触れたときは石けん水で洗い落すよう注意を与えたこと、それなのに昭和四六年二月、鋳鋼工場課及び鋳造工場課のアッシュランド取扱者三六名の中に、あせも状の発疹症状を呈した者が出たこと、そこで控訴人はアッシュランド取扱者全員三六名に対し、アレルギー反応テストを行ったところ、陽性二名、疑陽性二名という結果が出たこと、そして発疹原因はアッシュランド法に使用する粘結剤に含まれるポリイソシアネートミネラルスピリットがアレルギー体質者の皮膚に直接触れたためであることが判明したこと、控訴人は同年三月陽性とされた者二名をアッシュランドを使用しない他の班へ班替えし、職長、班長をして週三回行われる安全教育の場で注意を与えるなどして、ゴム手袋の着用をさらに徹底するよう指導し、その後同年四月鋳造工場、同年五月鋳鋼工場において、それぞれ連続フローミキサーが導入されて、作業員が直接手によって粘結剤を取り扱う機会が著しく減少したため、その後発疹症状を呈したものはなく、従ってアッシュランド取扱者に対し、アレルギー反応テストを行う必要がなくなったとして、これを実施していないことが認められ、右認定を左右する証拠はない。

ところが原審証人森啓二、同西村邦夫、同鈴木和廣、同白石守及び被控訴人石川本人は、原審において、アッシュランド取扱者の中で、その後も発疹症状を呈する者があって、鋳鋼工場課所属の横山信義は昭和四六年五月中旬、同じく小笠原某は同年六月上旬それぞれその腕に発疹症状が現われたということが伝わり、同年夏ごろにも、鋳造工場課の作業員に発疹が出たとのうわさがあり、さらに被控訴人石川は鋳鋼工場課の職場で、二人の作業員が発疹が出たといって立話をしているのを聞き、また職場ではアッシュランドの製品を切断するとき体がかゆくなるとか、アッシュランドを使うとき目が痛いなどの苦情がで、前記アレルギー反応テスト実施後、アッシュランドを使うようになった作業員については、そのテストが行われていないので、これを実施して欲しい旨の要望があったと供述する。しかし右供述によるも、横山信義はその発疹がアッシュランドによるものであると断言したものではなく、また小笠原某は医者にみてもらったわけのものではないというのであり、この点に関する当審証人横山信義の証言によれば、横山信義はあせもやじんましんのよく出る体質であったから、同人の発疹はアッシュランドによるものとは思っていなかったし、発疹が出ても左程気にしていなかったことが認められる。また昭和四六年夏ごろ鋳造工場課の作業員に発疹症状が出たというのは単なるうわさに過ぎず、被控訴人石川が鋳鋼工場課の職場で二人の作業員が発疹が出たというのを聞いたとしても、それは立話の程度であり、≪証拠省略≫によると、少くとも岩野伸也及び新井美治の知る限りでは、アッシュランドを使うとき目が痛むなどの苦情が出たとか、アレルギー反応テストを実施して欲しい旨の要望があったことはないことが認められる。

そうすると、被控訴人が本件ビラを配布した当時、アッシュランド取扱者の大多数に発疹症状が現れたことはなく、アッシュランドに対する不安も職場では解消していたということができる。

一歩譲って、被控訴人石川が右のような伝聞やうわさにより、横山信義ら五名の者が真実その手や腕に発疹症状が現れ、それがアッシュランドによるものであると信じ、ドビラに前記のような記載をしたのであれば、被控訴人石川本人の原審における供述によっても、当時アッシュランド取扱者は三〇名はいたことが認められるから、三〇名中五名のことを「大多数」と表現したことは、少くとも事実を誇張するものである。

(三)  右ビラは被控訴人石川の原審における供述によると、同人が組合の職場代議員の選挙に立候補し、その支持を有権者に訴えるために作成、配布したものであることが認められるから、被控訴人石川に控訴人を不当に中傷誹謗する意図があったとまでは認められない。しかしその意図するところが何であれ、その記載内容は職場の環境と従業員の安全に関するきわめて重要な事柄であり、それゆえにビラの及ぼす影響は大きいとみられるから、その記載内容が虚偽または誇張にわたることのないようその表現に配慮する必要がある。

以上のとおり、被控訴人石川の作成、配布したビラは、その記載内容において事実を歪曲ないし誇張するものであるから、控訴人の従業員である同被控訴人のした右行為は、就業規則第七七条一五号にいう控訴人に不利益となる浮説を宣伝流布した行為に該当する。

(四)  ≪証拠省略≫によると、控訴人は被控訴人石川の右行為は就業規則第七七条第一五号に該当し、本来ならばその情状を酌量しても減給処分に付すべきところ、同人は若年であって勤務も浅く、これまで懲戒処分を受けたこともないこと、特に控訴人側から事情を聴取された際その非を認めたとして、これらの点を考慮し今回はけん責処分にとどめることとしたこと、そこで澤田勤務課長は昭和四六年一〇月一五日、被控訴人石川に対し、右のとおりのことを説明し、就業規則第七二条第一項第一号に基づくけん責処分により始末書を提出するよう求めたこと、ところが同被控訴人は「事実に反することは書いていない」旨答えて、始末書の提出を拒んだこと、同課長は重ねて説得に努めたが同被控訴人は態度を変えなかったので、当日は処分を保留して退去させたこと、同月一八日岩野伸也鋳鋼工場課長は、同被控訴人に竹部辰夫の同課長あての手紙を示し、同被控訴人が誤っているとし、けん責処分に服して速やかに始末書を提出するよう説得したところ、同被控訴人は一日の猶予を求めたが、翌一九日右課長と会い、依然としてその態度を変えなかったこと、その結果一一月一二日減給半日の懲戒処分がなされたことが認められる。そして、その経緯によれば、この処分をしたことは相当であるとみられる。

(五)  被控訴人は、就業規則第七五条本文は「従業員が第七六条および第七七条に該当するときを除き、従業員として守らなければならない会社の諸規則、通達、通知等に故なく違反したときは、けん責に処する。」と規定してあるから、就業規則第七七条第一五号に該当する行為をけん責処分に付することはできない旨主張する。

しかし就業規則第七五条本文の趣旨は、第七七条に該当するとして処分される場合を除き、従業員として守らなければならない会社の諸規則、通達、通知等に故なく違反したときは、けん責処分に付する趣旨であるから、第七七条第一五号に該当する行為であっても、同条によって処分されない場合は、第七五条によりけん責処分に付することを妨げないと解するのが相当である。

三  上来るる説示のとおり、控訴人が被控訴人らに対し行った処分は、いずれも有効であり、従ってこれが無効であることを前提とする被控訴人らの本訴請求は、その余の点につき判断するまでもなく失当である。

また、懲戒処分無効確認の請求については確認の利益を認めるに足りる資料がないから不適法たるを免れない。

四  よって右と異なる見解の下に、被控訴人らの請求を一部認容した原判決は失当であるから、控訴人敗訴部分を取り消し、被控訴人らの請求を棄却し、被控訴人らの附帯控訴を棄却し、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第九六条、第八九条、第九三条第一項を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 渡辺一雄 裁判官 田畑常彦 宍戸清七)

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